温度の歴史
「温度」とは、物質の温かさや冷たさを数値で表した指標ですが、実は物質を構成する分子の運動エネルギーの大きさを示しています。
歴史的には、温度計測は気体や液体の熱膨張を利用した機械的な構成による温度計によって行われてきました。しかし、時代と共に、工業的に使用される温度は機械式温度計による測定範囲を超えた領域に広がり、さらに測定値の精度に対する要求も厳しくなっています。こうした流れの中で、温度計も機械式より電子式センサへと開発が進みました。
一方、測定精度への要求の高まりから、センサごとの絶対値のズレを無視できなくなり、実用的な方法で熱力学的温度と一致させるよう温度の目盛を定めた「国際実用温度目盛」が制定されました。1927年に初めて国際的指標として採用された後、対象温度範囲の拡大と精度向上による複数回の改定を経て、現在では「1990年国際温度目盛(ITS-90)」が国際基準となっています。
また、温度の単位として使用されるものには、以下があります。
a.ファーレンファイト
ドイツの物理学者の名前(Gabriel Daniel Fahrenheit)に由来。
温度計の研究家で、種々の液体の沸点を調べ、物質によって沸点が異なること、さらに気圧によってそれが変化することを発見した人です。アルコール温度計を発明した後、1714年には初めて水銀温度計を作り、華氏目盛りを導入しました。
温度単位は「°F」で「華氏●●度」とも書きます。
これはファーレンファイトの中国語表記「華倫海」から来ています。
現在はアメリカやイギリスで使用されています。
b.セルシウス
スウェーデンの天文学者・実験物理学者の名前(Anders Celsius)に由来。
1742年に、水の氷点を0度、沸点を100度と定め、それを基準に温度計測の尺度を作りました。
温度単位は「°C」で「摂氏●●度」とも書きます。
これはセルシウスの中国語表記「摂爾修」から来ています。
セルシウスは国際的に広く採用され、日本でも日常的に使われる温度単位です。
c.ケルビン(絶対温度)
アイルランドの物理学者、ケルビン卿(Baron Kelvin of Largs:本名William Thomson)
に由来。
1848年に、温度計の物質の特性に依存しない温度目盛りを理論的に定義した人で、IEC(国際電気標準会議)創設時には、初代会長を務めました。
温度単位は「K」で「絶対温度●●ケルビン」とも書きます。
絶対温度は物理現象を式で表す際に有効とされています。
摂氏温度と絶対温度の関係
摂氏温度℃と華氏温度℉とでは1度のスケールが異なるのに対し、摂氏温度℃と絶対温度Kの1度のスケールは同じです。摂氏温度0[℃]は絶対温度273.15[K]に等しいと定義されているため、それぞれの単位で表された温度については、常に以下の式が常に成り立ちます。
摂氏温度t[℃]=絶対温度T[K] – 273.15
センサの種類
温度センサはセンサの中でも最も古いものです。
家電製品の温度制御や化学工場での温度計測だけでなく、水位・湿度・流速・圧力などの計測制御にも用いられています。
温度センサは、下記に示す通り一般に接触式と非接触式に分けられます。
接触式は、直接物体に接触して測定する方式で、センサの構成が簡単で広く用いられています。
代表例としては、白金測温抵抗体・サーミスタ・熱電対があります。
非接触式は、物体から放射される赤外線を測定し、その赤外線の量から物体の温度を測定する方式で、センサの構成は複雑です。
代表例として、サーモパイルなどがあります。
a.白金測温抵抗体
金属の抵抗をはかって温度を求める温度センサを測温抵抗体と呼びます。 その中でも、化学的に安定でしかも高純度のものが得られやすい白金抵抗温度センサは、JISに規定され標準温度計に用いられているほどです。
白金の細線をコイル状に巻いたものが多く外形が他のセンサに比べると大きくなるのが欠点ですが、蒸着等の方法で小型化したものも製品化されています。
保護管付白金測温抵抗体
白金測温抵抗体の温度特性
温度センサの抵抗の温度特性
b.サーミスタ
半導体の温度特性を利用した半導体抵抗温度センサのサーミスタは、抵抗温度変化特性の直線性が悪く測定精度も低いのですが、小型で白金抵抗体の10倍くらい感度が良いので、温度センサとしては現在最も広く実用されています。
サーミスタにはNTCとPTCの2種類の感温素子があります。
PTCは広い温度範囲の温度センサとしては使用できませんが、NTCに比べて温度係数が1桁近く大きいので、低温温度センサとして利用されています。
また、ある温度で内部抵抗が急に減少する特性を利用したCTRもあります。
種類 | 特性 | 使用温度範囲 | 特性カーブ | 備考 |
NTC | 温度上昇とともに抵抗値が減少する 負の温度係数 | -50~400°C | 各種温度測定 | |
PTC | ある温度で内部抵抗が急に増大する 正の温度係数(スイッチング特性) | -50~150°C | 温度スイッチ | |
CTR | ある温度で内部抵抗が急に減少する 負の温度係数(スイッチング特性) | -50~150°C | 温度警報 |
サーミスタの利用例
- 電子体温計
- 冷蔵庫や冷凍庫
- エアコンの制御用
温度センサの他に、風速センサ・微流速センサ・真空センサ・ガスセンサ等にも使用することが可能です。
c.熱電対
二種類の金属で回路をつくり、その二つの接合点を異なる温度に保つと熱起電力が生じ電流が流れる「ゼーベック効果」の原理を利用した温度センサです。熱電対では原則として、測温接点と基準接点の間の熱起電力を測定します。測温接点の温度を知るためには、基準接点の温度を一定にする必要があり、一般に基準接点の温度を0°Cにとって起電力が定義されます。(実験室などではシャーベット状の氷水の中に、基準接点を入れて測定する事がよく行われます。)
熱電対の特長
- 比較的安価で入手しやすい。
- 測定方法が簡単で精度が高く、測定時間の遅れも比較的小さい。
- サーミスタ等よりも広い温度範囲の測定を可能とする。
- 感度や寿命等の状況に応じて種類や素線経を選ぶことが出来る。
- 小さな測定物や狭い場所の測温を可能とする。
- 測定物と計器間との距離を大きく取ることができ、回路の途中に局部的な温度変化を生じても測定値にほとんど影響を与えることがない。
記号 (旧) | +脚 | -脚 | 使用温度範囲(°C) |
K(CA) | クロメル | アルメル | ‐200~1000 |
E(CRC) | クロメル | コンスタンタン | ‐200~700 |
J(IC) | 鉄 | コンスタンタン | ‐200~600 |
T(CC) | 銅 | コンスタンタン | ‐200~300 |
R(PR) | 白金・ロジウム13% | 白金 | 0~1400 |
S(-) | 白金・ロジウム10% | 白金 | 0~1400 |
B(-) | 白金・ロジウム30% | 白金 | 300~1550 |
クロメル=ニッケル・クロム合金、 アルメル=ニッケル・アルミニウム合金、コンスタンタン=ニッケル・銅合金 |
いろいろな熱電対の起電力の温度特性
当社では、熱電対温度計を製造・販売しております。
熱電対プローブの素材や種類なども多数取り揃えており、プローブの特注品も承っております。
お気軽にお問い合わせ下さい。
種類 | シース型 | パイプ型 |
構造 | 保護管の内部に酸化マグネシウムやアルミナを固く充填し内部を電気的に絶縁する。 | 熱電対素線を磁器絶縁管で固定して 保護管に封入する。保護管には 主にステンレスが使用される。 |
長所 | シース径の5倍以上の曲率ならば曲げる事が出来る。(但し過度の曲げや繰り返しは誤差の原因となる) 熱応答性の向上、耐熱性がある。 | シース型と比べて安価。 |
短所 | 吸収性が強いため、湿気に弱い。 | 曲げ加工が出来ない。 熱電対素線の絶縁が劣化しやすい。 |
当社のプローブ製品についての情報はこちらの電子カタログをご覧ください
また、当社の熱伝対プローブについてのよくある質問をまとめた「熱伝対プローブQ&A」もあわせてご覧ください。
d.サーモパイル
熱形温度センサのサーモパイルは、簡便な赤外線センサで、熱電対を微少な面積の中に直列に並べたものです。
参考資料
温度測定や使用目的に合った温度センサを選ぶ際などにお役立て下さい。
番号 | 定義定点 | 絶対温度(K) | 摂氏温度(℃) | 使用温度計 | ||
1 | ヘリウムの蒸気圧点 | 3~5 | -270.15 ~ -268.15 | ←―― ヘリウム気体温度計 ――→ | ||
2 | 平衡水素の三重点 | 13.8033 | -259.3467 | ←――――――――――――― 白金抵抗温度計 ―――――――――――――→ | ||
3 4 | 平衡水素の蒸気圧点 または気体温度計点 | 約17 と 約20.3 | 約-256.15 と 約-252.85 | |||
5 | ネオンの三重点 | 24.5561 | -248.5939 | |||
6 | 酸素の三重点 | 54.3584 | -218.7916 | |||
7 | アルゴンの三重点 | 83.8058 | -189.3442 | |||
8 | 水銀の三重点 | 234.3156 | -38.8344 | |||
9 | 水の三重点 | 273.16 | 0.01 | |||
10 | ガリウムの融解点 | 302.9146 | 29.7646 | |||
11 | インジウムの凝固点 | 429.7485 | 156.5985 | |||
12 | すずの凝固点 | 505.078 | 231.928 | |||
13 | 亜鉛の凝固点 | 692.677 | 419.527 | |||
14 | アルミニウムの凝固点 | 933.473 | 660.323 | |||
15 | 銀の凝固点 | 1234.93 | 961.78 | ←―― 放射温度計 | ||
16 | 金の凝固点 | 1337.33 | 1064.18 | |||
17 | 銅の凝固点 | 1357.77 | 1084.62 |
温度センサの種類 | 使用温度範囲 |
水晶温度計 | -100°C~220°C |
サーミスタ | -200°C~800°C |
IC化温度計 | -55°C~150°C |
白金測温抵抗体 | -180°C~600°C |
水銀温度計 | -30°C~350°C |
アルコール温度計 | -60°C~100°C |
熱電対R(白金、ロジウム) | 200°C~1400°C |
熱電対K(クロメル、アルメル) | 0°C~1000°C |
放射温度計 | 0°C~2000°C |
参考文献・サイト
- 「温度センサ」 横浜国立大学工学部 物理工学科 中川英元 著
- ㈱オーム社 「センサ入門」改訂2版 雨宮好文 著
- ㈱日本実業出版社 「図解でわかる センサーのはなし」 谷腰欣司 著
- ㈱培風館 「センサハンドブック」 片岡照英・柴田幸男・高橋清・山崎弘郎 著
- ㈱千代田平出版社 「センサデバイスハンドブック」 センサ技術者編集部 編
- ㈱三省堂 「物理小事典 第3版」 三省堂編集所
- 国際度量衡委員会:BIPM(CIPM)ウェブサイト